
第21回 加藤 勇夫さん
加藤工芸株式会社 取締役会長
今回の語り部、加藤勇夫さんは1930年生まれ。タキヒョー系列の繊維問屋に入社し、貿易部で陶器の輸出に携わって以来、ノベルティに魅せられ、現在も加藤工芸株式会社の経営者として現役でノベルティの製造・販売を続けてみえる方です。ノベルティについて、また、ご自身の苦労話などを語っていただきました。
―――・・・戦前、戦中、戦後と、厳しい時代を経験 ―――・・・輸出品の花形だったノベルティ人形
―――・ ・・ノベルティ専門の会社を経営 現在、私の会社ではノベルティだけを扱っていまして、仕入れの1割は瀬戸。あとはすべて海外。それも日本と中国のジョイントベンチャー工場で生産をしています。そして、それらの99%を日本国内で販売しています。10年前までは輸出が6割、国内販売が4割でしたから、かなり変わりましたね。もともと日本人は、世界一品質の良いものを要求する国民ですから、アメリカに輸出していたノベルティも非常にいい品がありました。現在、海外で生産していて問題の原因になるのは、そうした国民性の違いから起こることが多いですね。 ―――・
・・ディズニーのキャラクターで原型づくり これは弊社の今年のカタログですが、すべて弊社のオリジナルデザインによるものばかりです。たとえば、ディズニーのキャラクターですと、まずキャラクターの権利を取り、ディズニーの許可を得て原型を自社で作成。その型を海外に持っていき、生産しています。なぜこういうスタイルをとっているかというと、新しい型を持っていって中国で生産すると、コピー品がすぐに出てきます。訴訟するにしても日本企業では難しいのですが、海外のキャラクターですと、版権元が訴訟をやってくれるので、その手間がかかりません。そういうわけで有名なキャラクターをやっております。 ―――・・・もう一度、日本でノベルティ商品を うちは社内に原型師が4人おります。今や瀬戸でも自分の会社に原型師を置いてやっているところはないのですが、そのくらい、ノベルティに対して私が情熱を燃やしているということがわかっていただけると思います。現在は、原型を作れば、中国ですと一週間で生産できるようになりました。しかし、私の夢はもう一度日本でノベルティ商品を作ることです。それを実現したい。これだけ精巧なものを作れるのは世界でも少ないですから、ノベルティの技術をなんとか継承しなければという思いを強くしています。 ―――・ ・・彫塑師や原型師の腕が光る全盛期 現在のノベルティも、手で作ったのと同じ工程を経て、手間 をかけて作られています。石膏の型には空気抜きの穴がありますが、ノベルティの人形を作る時は、手や足など5つも6つもつけます。それから仕上げて乾燥させ、手で絵付けをしていきます。犬などの動物の鼻には、つや出し絵の具を使って光らせます。ノベルティは、彫塑師や原型師の腕によって出来が変わってきますね。ノベルティ全盛期の頃に最高の技術で作られた人形のいくつかを陶磁器会館にも寄付しましたので、ここに来ればショーケースに飾られているのを見ることができますよ。
―――・ ・・求められているのは、癒しの商品 また、焼き物の犬などはレジンでも作ります。レジンというものは樹脂素材で、型はシリコンです。うちでは3日で作ることができます。ただ、日本の市場というのは中間のものはあまり売れません。最高のものが要求されます。お客さんも変わってきており、大きな陶器やノベルティも求められなくなってきています。居住空間も狭いですから、ノベルティはなるべく小さくて、良くできていて、嵩のないものがいいようです。今、求められているのは癒しの商品ですね。動物やキャラクターの顔を見ていると癒される。なるべく年齢層を上げられるものが求められています。
―――・ ・・ノベルティは"型"が一番大事 私は、技術の継承は必ずしも日本で継承しなくても良いのではないかとも考えています。たとえ中国で作ったとしても、瀬戸でまたできるようになればいいのですから。それを息子に言って、いま試しているところです。ただ、ノベルティというのは、デザインを描く人、それから"型"というのが一番大事ですから、型屋さんの技術も同時に継承していかなくてはならないと思います。瀬戸には良い設備も残っていますし、なんとか先人たちの技術を継承していただき、「もう一度よみがえれ、瀬戸」ということでやっていただきたいですね。
―――・・・瀬戸蔵での「加藤工芸と瀬戸のノベルティ展」 量産品では、昭和30年代に一番いいものができていました。それ以降になると人手が足らなくなってきて、いいものを作るのが難しくなりました。大量生産ではなく、分業方式にすれば、瀬戸は生き残れると思います。昨年7月に瀬戸にある瀬戸蔵で「加藤工芸と瀬戸のノベルティ展」というのをやっていただきました。1500点のうち弊社のノベルティ商品は80点ぐらいしか展示されませんでしたが、いろいろな方に言われたのが「こんなにいいものが瀬戸でできるのにどうしてやらないのか。どこでも地場産業があって、伝統技術でやっているではないか」ということでした。そこで私が言いたいのが「瀬戸の陶器屋が一流企業と同じくらいの給料を出せば、こんな夢のある楽しい仕事はないのではないか」「それだけの給料を出すだけの値段で売ればいいのではないか」ということです。
―――・ ・・瀬戸蔵と愛知県陶磁器資料館にノベルティを寄付 また、私はこの60年間にわたり、思い入れのあるノベルティを収集してきましたが、ある人から「お世話になった瀬戸の陶磁器美術館にノベルティを寄付したらどうか」という話が来ました。そこで、瀬戸蔵に集めてきたノベルティ約1500点を寄付し、愛知県陶磁器資料館にも約500点寄付いたしました。ノベルティを末永く皆さんに見ていただき、"瀬戸の人は苦労してこんなにいいものを作っていたんだ"という歴史をぜひ伝えていただきたいですね。 ―――・・・誇りにできるメイドインジャパン 思えば60年前に貿易再開になった時は、メイドインジャパンというのは"安かろう、悪かろう"の代名詞でした。今ではジャパンの名が付いていれば、世界中どこにでも胸を張っていける代名詞になってきております。弊社の中国製商品をメイドインジャパンに貼り替えて欲しいという商社も出てきているほどです。ですから、メイドインジャパンと言って正々堂々と出せるものづくりを、これからの若い人がなんとかできる方法をみつけていくことも大切だと思いますね。 ―――・ ・・様々なノベルティ人形を作っています 私の会社では国内のお客さんにうちの原型師を見せて、「うちは、この技術で売ります」と言っています。瀬戸のノベルティデザインというのは、だいたいアメリカ人やイギリス人が持ってきたマイセンやドレスデンなど、海外の有名な人形です。"これを作れ"というわけで、そういったノベルティしか瀬戸では作りませんでした。うちの場合は、我々が起こしたオリジナルのデザインを上手に作るメーカーに持っていき、生産を委託していました。ですから、うちには陶器もあれば、磁器、半磁器など、様々なノベルティ人形があります。それが個性でもあり、強みですね。 ―――・ ・・つねに新しいノベルティ商品を作る 今、新事業として、プリザーブドフラワー陶器の販売を考えています。プリザーブドフラワーの製造元と業務提携して、アレンジする容器をうちで作る。現在は、百貨店だけを相手にしてもやっていけないので、専門店向けに売っていかなければいけません。うちの場合、売上の5割はOEMで、いろんなところのものを作っています。そのうち4分の1は無店舗販売です。非常に厳しい商売で苦労もありますが、今後もノベルティ専門会社として、つねに新しいものを丁寧に作っていきたいと思っています。 *加藤工芸さんのHPをご紹介します。 http://www.katokogei.co.jp/ |