業界人のお話

　　　　　　HOME>業界人のお話>第６回　久野亀三郎　H17.7.19

業界人のお話

第6回　　久野亀三郎さん

（有）益満代表者

大正13年、熱田区に生まれる。
学生時代、ＣＣＤ時代に学んだ抜群の英語力を活かし、昭和26年、（有）益満を起業
以来、半世紀に亘り陶磁器の貿易商として活躍される。

金貰って
英語の勉強ができました。

―――　業界に入ったきっかけは？
　私が昭和25年に船会社の代理店で布池に西浦海運がありまして、当時(世間では）給料が安かったので多少他所より高かったのでそこへ入りました。
　当時はまだ自転車でね、いろんな貿易商を廻って、私はヨーロッパとアフリカの集荷担当でしたが、あの頃はアフリカへものすごく出たんですよ。もちろんアメリカがトップでしたね。
　そんなことで、貿易商を北区から東区へ、殆どあまねく自転車で行ったもので、そのうちに、「一人でやってみたいな」と思っていたら、たまたま、私の友人が、調度、人を紹介してくれまして、彼は商売を知っているけど英語ができんと、私は商売を知らないけど英語が出来ると、それで、｢うまくやろまいかー」という事で、当時わずかに３万円を出資してやり出した事はよかったけれど、要するに相棒がなまかわで商売やりゃせん、半年おっても給料いっこうにくれへん、こりゃあ、あかんと、そのうち、分散しちゃいました。だから、その時は路頭に迷ったけどね。

―――　　お店の名前はどのようにしてお決めになったのです？
　それで、勤めようか、自分で始めようか思っているうちに、とうとう自分で始める事にして、それで名前を、私の知っている人で姓名学に凝った人がいて、その人に付けてもらったのが、「益満」（ますまん）、そういう名前でやり出したんですわ。最初やり出したのは赤塚で、小さな６畳一間借りてね、一人使って、3年でぼんぼん調子が良かったので、今の所の地所を買って、昭和30年に山口町に移ったわけ。だから、発祥の地は赤塚ですわ。

―――　　貿易は海運会社で覚えたのですか？
　海運会社の10ヶ月は動機になっただけで、そこで貿易を覚えたわけでもなく、だから、わしみたいなのは、今で言うならベンチャーですわな。何にもわからん奴が、無茶苦茶やってきた。そんなもの、陶器もわからんでしょう。名前もわからない。それはメーカーに行けばわかるし、手探りでやってるうちに、半年経たんうちに覚わってしまった。

―――　　英語はどちらで覚えたのですか？
　英語は中学校、それから、昔の専門学校、名古屋高商と言って、今は名大の経済学部。私はどっちかというと、愛商の出身ですわ。
　そこで英語は興味をもって勉強したもんで、自慢ではないですが、当時同級生の中ではわしの右に出る者はいなかった。
　戦後、昭和21年から4年半ばかり進駐軍にいってたんだわね。その時に郵便物からいろんな資料をとって検閲する一つの機関があったんです。 CCD（*１）といって民間情報検閲部と訳すんですがね、そこで私は運よく役職にも就いて、給料も普通の数倍もあったんで、解散になるまでおったんです。その時にしっかり英語の勉強ができたわね。金貰って勉強ができた。
　貿易の通信をやったりする事には、別に苦労しなんだし、それをせん事には通信はできんでしょう。当時の通信はテレックスも何もなく電報。電報は一字がいくらだもんで、なるべく短く。一語増える毎に料金があがるでしょう、短く収まらなくて大変だった。

*1　　CCD(Civil Censorship Detachment) :
GHQの民間諜局（CIS）の下に民間検閲支隊(CCD)が置かれ、その内部は郵便部、電信電報部、新聞映画放送部の3部に分けられて検閲が行われました。

―――　　お客を見つけるのは大変でしたか？
　当時はデータがいくらでもありましたね、雑誌もいろんなものが発行されていたし、商工会議所からいろんな引き合いがきてるリストが見せてもらえるし、そういう面においてはあんまり不自由はしていなかった。
　面白い事に、これが最初だと思うんですが、サウジアラビアのバーレーンのちょっと上の所にダンマンという所があるんですよ。そこのお客さんからたまたま直接手紙が来たんです。ダンマンなんてどこ探してもあれへん。「とにかくいいわ」ってこっちの置いてある物をオファーしたら、ばーんって買ってきたわけ。それでインボイス(*２)出したら「それでいい」と。そしたら今度は、向こうは向こうで、「あそこ、日本から買ってるけど、どこだろう？」って調べたらうちだったって。それで、知らない所から一件、二件、三件とダンマンだけで四件くらいきてインボイスを打つ度に（注文が）決まってしまう。そんなもんですわ。つきのある時は。今では信じられない。だから当時、名古屋港からの輸出のトップが陶磁器だったんですからね。トヨタの車はその次だった。そんな事考えられんでしょ。今は。

*２　　インボイス（INVOICE): 送り状、請求書

―――　　どんな商品を扱っていたのですか？
　メーカーさんは名古屋、東濃地区の多治見、土岐、瑞浪、陶、それに四日市、瀬戸、ほとんどだった。扱い品はテーブルウェアばっかりだった。アメリカはやってなかったからノベルティは少なかったです。ノベルティだったらいろいろとデザインやモデルが違うが、テーブルウェアの方は単品でぽーんぽーんと買うでしょう。どうしてもテーブルウェアの方が主体になった。

イラン貿易
そのボリュームの大きさに
惹かれて。。。

――――　　一番苦労したことは？
　あまり自慢になる話ではないですが外国為替法違反です。これにねぇ、2回ひっかっかっているんです。と言うことはね、お客のためだけで、こちらは一切メリットはない。と言うのは、100万なら、L/C(*3)開くのは70万で開いて、「30万は必ず送るでええと。心配してくれるな」と。所謂アンダーバリューですね。
　それやらな商売ならんもんで。一番最初受けたのは香港ですわ。香港のお客からそういう申し込みがあって、２，３件やってるうちに、L/Cは70万、インボイスは100万で金送ってくるんですよ。香港から、どうやって送ってくるのかと思っていたら、東京の有名な銀行の保証小切手を送ってくる。香港からわざわざ日本の銀行の保証小切手を送ってくるとは考えられんでしょう。それは後でわかったんですけどね、当時香港では日本の銀行の保証小切手を売買するマーケットがあってね、それを買ってこっちへ送ってきてたんです。そんな事があったんですが、ばれて、昭和38年に名古屋で20社くらいあがったわね。新聞にばーって出たわ。
　アンダーバリューはもう習慣になってしまって、香港の連中は皆そればっかりになってしまって、だけど、きちんと差額まではくれんでしょう。キリのいい数字で送ってくるもんで端数が貯まるがね、どうしても最終的には集金に行かないかん。
　昭和37年の8月だったかな、日本人はまだ自由に外国に行けんかった。向こうから招聘状をもらって、商売のために行くんだと県庁で許可を得て、パスポートをもらった。当時は2万円くらいしか持って行けなかった。こっちは向こうに50万も貸してあるもんで、当時の50万は大きいよ。だから向こうで使う金は心配なかった。帰って来た時は全部貰ってきた。

*３　　L/C(Letter of Credit) : 信用状
貿易決済を円滑化するための手段である。
貿易取引は、相手が遠隔地にいるため、商品を発送しても買い手がちゃんと支払いをするかどうかを確証する手段に乏しい。このために発達した手段が荷為替手形という方式であるが、これに銀行による信用供与を加えてさらに確実にした手段が信用状決済である。

　その次にもっと大きいのはイランですな。イランは大きかった。500万くらいあったもんな。とうとう荷物は在庫にしてまう、2ヶ月くらい金は入ってこん。銀行では借金せんならん。
　そんなことで、昭和53年の8月だったかな。テヘランへ行きまして、2週間で半分、150万ぐらいくれたかな。


Esfahan(イスファハン）,IRANにて　　1978年(昭和53年）10月14日

　イランはやってる連中多かったですからね。そりゃあ皆、海上保安庁などが来て、しらみ潰しに調べられて、どんどんあがった。その時は10万ぐらい罰金取られたかねぇ。

―――　イラン貿易は盛んだったのですね？
　イラン貿易は終戦直後からあったらしいですよ。私が経験したのは昭和47年から55年です。アメリカに次ぐテーブルウェアの消費国だったんです。ですからボリュームは大きかった。そのボリュームに惹かれて...魅力があったんですわ。
　私がイラン貿易を始めたきっかけは、昭和47年頃にイラン人がひとり名古屋に来ましてね、彼を通じて貿易を始めたんです。他の者も最初は彼にお伺いを立てて商売をしていました。ところが、お客は金を彼の所に送ってくるので、彼が調整してしまって、あっちに先に、こっちにとお金を渡すもんだから、往生したに。まあ最後には決済したけどね。
　そのうちに、だんだんと、イランの連中と直接やるようになって、私はいいお客が3件ありまして、 3件で十分商売ができました。55年がピークだったんですがね...(*4)　それが金はくれへんがね。全部くれて儲かっていれば、今頃ビルが建ってますわ。

*４　　昭和54年：イラン革命
昭和55～63年：イラン・イラク戦争
イラン国内は混乱し、イラン貿易も衰退していった。

―――　年商はどのくらいありましたか？
　年商が一番いい時は2億3千万くらい。平均して1億5千万くらいまででした。イランがなくなってから、だんだん減っていった。イランがあったから、それだけの貿易ができた。

俺しかやってない
めずらしいマーケット
がありました。

―――　お辞めになられたのはいつ頃でしたか？
　最後は友達に頼まれて、ニュージーランドを3年ばかやったか。白素地を出して、それが細かいんだわね、往生したけど率がいいし、金はちゃんと現金で送ってくるで、その面では心配なく続きましたが、3年後からはだんだん減ってしまって、その頃はわしも７４、５歳になって歳だし、「まあそろそろ辞めたいなぁ」と思う頃、ニュージーランドが終わったんで、調度タイミング良く終わりました。

―――　いろんなところと貿易なさったのですね？
　日本ではわししかやってないっていうマーケットがある。コモロ諸島といって、マダカスカル島とアフリカ大陸の間に三つばか小さな島がある。そこをコモロスアイランドという。そこのお客とコンテナーの扱いでやったよ。すごいよ。郵便局の人も知らなくて、「何処にあるんですか？益満さん、めずらしい所とやってますね」と言われた。

「商売下手だったね。よう儲けなかった。金徳はなかった。まあ人並みの金運かな。抜群に良くもなく悪くもなく。健康で幸い戦後一度も病気したこと無い。それだけがありがたいと思ってます。それだけですわ」　と幸わせろうな笑顔で語ってくれました。

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